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最高裁判所第三小法廷 平成8年(行ツ)252号 判決 1997年4月25日

大阪市東住吉区住道矢田一丁目二二番二号

上告人

株式会社 河内駿河屋

右代表者代表取締役

桝井彌太郎

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

浦田和栄

松本司

岩坪哲

田辺保雄

南聡

冨田浩也

酒井紀子

深堀知子

同弁理士

鈴木武夫

鮫島武信

和歌山市駿河町一二番地

被上告人

株式会社 駿河屋

右代表者代表取締役

岡本公一

右訴訟代理人弁護士

美村貞夫

宍道進

美村貞直

藤井文夫

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第一六四号審決取消請求事件について、同裁判所が平成八年八月九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人村林隆一、同今中利昭、同浦田和栄、同松本司、同岩坪哲、同田辺保雄、同南聡、同冨田浩也、同酒井紀子、同深堀知子、同鈴木武夫、同鮫島武信の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 山口繁)

(平成8年(行ツ)第252号 上告人 株式会社河内駿河屋)

上告代理人村林隆一、同今中利昭、同浦田和栄、同松本司、同岩坪哲、同田辺保雄、同南聡、同冨田浩也、同酒井紀子、同深堀知子、同鈴木武夫、同鮫島武信の上告理由

1.本件における時間的経過は次ぎの通りである。

25.4 京都駿河屋大阪店(株式会社京都駿河屋大阪店)

26.9.17 引用商標出願(A)

10.22 同(B)

32.4.24 駿河屋会創立

33. 訴提起(和歌山地方裁判所昭和33年(ワ)第457号)

35.7.21 引用商標登録(A.B)第553169号、第553170号

48.3.26 裁判上の和解成立(乙第33号証) 「ⅰ) 上告人は、昭和48年11月1日限り商号を「株式会社河内駿河屋」と変更し、かつ、上告人製造にかかる商品菓子について「河内駿河屋」の商標を使用するものとし、被上告人はこれに異議なきものとすること ⅱ) 上告人は、上記ⅰ)の商号及び商標と、被上告人又は他の駿河屋の商号及び商標との混同を避けるものとし、ⅰ)の商号及び商標の使用に 際して「河内」と「駿河屋」の文字の大きさ、太さ、墨色、書体を異にする等の方法で第三者をして「駿河屋」たる文字のみに対する印象を深めることをしてはならず、「河内駿河屋」の商号及び商標を一体として認識させるよう使用するものとし、「河内」と「駿河屋」とを分離して認識させ又は印象づけるような一切の行為をしてはならないこと、 ⅲ) 被上告人及び上告人は相互に上告人の商品営業と被上告人又は他の駿河屋の商品営業と混同を生ぜしめるような一切の行為をしてはならないこと、 ⅳ) 上告人は上記ⅰ)の商号及び商標を他に使用させたり譲渡したりしないこと、 ⅴ) 上告人が上記約定に違反し、これによって河内駿河屋と被上告人又はその他の駿河屋と商号、商標を混同させた場合は、被上告人は上告人に対し右混同を生ぜしめる行為の差止めを請求することができること、但しいかなる場合でも上記ⅰ)の商号及び商標の使用の差止めを請求することはできないこと、 しかして上告人は、昭和48年11月1日、商号を「株式会社河内駿河屋」と変更した(変更登記は11月2日)。」

51.5.10 本件商標出願

55.10.31 同上登録(第1439644号)

59. 本件無効審判請求

2.第1点 原判決には経験則違反(和解条項の解釈の誤り)があり、上記の経験則違反は判決の結論に影響を及ぼすものである。

(1) 前項の通り、本件登録商標は昭和55年10月31日に登録にかかるものであるが、その以前である昭和33年に被上告人は上告人に対して上告人の当時の商号、商標使用禁止の訴を提起したが、昭和48年3月269日に前項の通り裁判上の和解が成立した。

上記の和解の内容は前項のとおりである(乙第3号証)。

(2) ところで、原判決は上記和解によって上告人が「その取扱商品に『河内駿河屋』の商標を使用することの許諾を得たことは明らかである」が、上告人が「本件商標あるいは『河内駿河屋』の商標について商標登録出願をすることを被上告人において許諾する旨の明示の記載はなく、上記ⅰ)の条項が当然に本件商標あるいは『河内駿河屋』の商標の商標登録出願についても許諾しているものとは解されないこと、商標登録出願につき許諾を得ていたとすれば、上記商号の変更登録手続と同時か、少なくともその後短時間のうちにその手続がなされてしかるべきものと考えられるが、本件商標につき商標登録出願がなされたのは昭和51年5月10日であって、商号の変更登記約2年半も経過していること・・・」と認定判断した。(27頁1行目~10行目)

(3) 然しながら、上記認定は、吾人の経験則に違反するものであるか、上記和解条項の解釈を誤るものである。

上記和解条項は前項の通り被上告人が上告人に対して「河内駿河屋」の商号、商標の使用を許可したものであるが、上記の条項には「いかなる場合でもその商号及び商標の使用の差止めを請求することはできない」旨の規定がある。換言すれば、上告人は本件和解によって、永久に本件商号、商標を使用してその営業を継続することが出来るのである。このように、永久にその商標を使用することが出来る商人がその商品を生産し、証明し、又は譲渡する場合に、その商品にその商標を使用するのであるが、その商人がその商標を保護するために、その業務上の信用の維持を図り、もって、産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護するために(同法第1条)当該使用している商標について、商標出願をして、その商標権を取得するものであることは法の認めたところである。換言すれば、原判決は<1>許諾する旨の明示の記載はない。<2>当然に、許諾しているものとは解されない。<3>登録出願が2年半も経過している等々をその理由としているが、上記のような商標制度からすれば、永久に当該商標を使用することが出来る商人は、何時でも、自由に、自己の信用の維持と産業の発達に寄与する為に、商標出願が出来るのであって、その為に、決して明示の記載は必要でなく、また、許諾後速やかに商標登録出願を義務付けられるものではない(因みに、商号変更手続を課した和解条項はない)。この点について原審は所謂、工業所有権専門部として「工業所有権」を殊更に特殊のものと考えているが、一般人から見れば、それは、財産権の1つであって、かつ、有体物よりも安く見ている(よい傾向ではないが、段々と変って来ていることは吾人の承知しているところである)。そして、本件和解成立当時は、未だプロパテント時代は到来しておらず、必要があれば、登録出願をすればよい位しか考えていなかったものである。そのことから特に和解条項には明示の記載がないが、禁止規定がないのであるから、永久に使用している商標について、その永久の或時点において商標出願を任意にすることができることは言うまでもない。専門部は得てして、専門に傾き過ぎ吾人も同じように工業所有権を重視していると思い勝ちであるが、当時はそのような時代ではなかったのである。

第2点 原判決は商標法第4条第10号、第11号、第15号の解釈適用を誤り、上記の誤りは判決に影響を及ぼすものである。

原判決は、第10号について「周知商標を保護することによって、商品の出所混同の防止という効果をもたらすものであ」る、11号について「一般取引者、需要者が商品に関して誤認、混同するようなことがないことを期したものである」、第15号は、商品の出所混同を防止することを「意図した」規定であり、「上記各規定の趣旨、性格をどのように解するにせよ、周知商標や先願商標と類似し、商品の出所混同を生ずるおそれのある商標については、周知商標の使用者あるいは商標権者の承諾があっても、上記各規定に該当するものと解すべきところ・・・、被上告人の使用許諾があるからといって、本件商標が上記各規定に該当しないということはできない。」(28頁13行目~29頁3行目)と判断した。

然しながら、上記判断に「被上告人の使用許諾があるからといつて・・・」と判断し、商標権が商標権者の業務上の信用の維持を図ることを最大の目的としている(同法第1条)法の趣旨に反するものである。

ところで、

(1) 原判決が公益的要素もあるという10号、15号について、商標法第4条第3項が出願時を以って、基準日とし、従って、出願時に第10号、第15号に該当しなければ拒絶理由又は無効理由とならないとしているのであるから、その後にかかる状態が生じることを当然のこととしている。このような場合にも、商標権者の承諾があっても、各規定に該当するとは言い得ないのである(同条項が第11号を規定していないことは第11号は全くの私益規定であるからである)。

(2) また、同法第47条は「商標登録が・・・第4条第1項第8号若しくは第11号から第15号まで(私益的不登録事由)・・・の規定に違反しているときは」除斥期間を設けたことは、上記の規定がそれぞれ私益規定であるからである。

(3) 次ぎに、商標権者は当該商標権について、専用使用権(第30条)および通常使用権(第31条)を設定又は許諾することが出来るのである。このような場合、当該商標権者にかかる商標と、使用権者の使用にかかる商標との間に、第10号、第11号、第15号の関係が生じることは当然である。然るに、商標権者がこのような契約を締結することを禁止する規定は全くなく、商標権者の自由な意思によって、使用契約を締結することが出来るのであるから、商標権者(被上告人)が承諾しても10号、11号、15号によって、上告人の商標権の登録は駄目であるとの論理は出て来ない(因みに、これらの使用権のうぢ、前者は登録がその要件であり、後者も登録することが出来るのである)。

従って、原判決の引用する理由によっては、本件登録を拒絶し、之が登録が無効であると認定することは正に商標法の解釈適用を誤るものである。

第3点 原判決は商標法第4条第1項、10号、11号、15号の解釈適用を誤り、上記の結果、判決に影響を及ぼすものである。

原判決は、本件商標は、引用商標及び被上告人の周知商標と類似すると認定している。

然しながら、

(1) 本件商標は、第1項および第2項第1点において主張した通り、被上告人が上告人が当時使用していた「京都駿河屋大阪店」の商号、および商標の差止訴訟において、「河内駿河屋」と変更することによって、被上告人と上告人とが和解をしたことによって、上告人が和解成立後使用し、永久に使用出来るものである。

換言すれば、被上告人は和解成立当時は「京都駿河屋大阪店」では被上告人の商標と類似し、両者が混同を来すと考えたが故にあえて差止訴訟を提起したのであるが、「河内駿河屋」に変更することによって、被上告人の商標と上告人の商標とは類似しない、混同しないと判断して、和解を成立せしめたものである。従って、上告人も原判決も認定しているように「河内駿河屋」の文字を、同一の書体、同一の大きさをもって等間隔に横書きして使用しているのであって、「河内駿河屋」と一連に使用しているものである。

従って、「駿河屋」と「河内駿河屋」とは非類似である。換言すれば、第1項において原判決が規定しているように、<1>「河内」と「駿河屋」の文字の大きさ、太さ、墨色、書体を異にする方法で用いた場合、<2>「河内」と「駿河屋」とを分離して認識させ、又は印象づけるような行為をすると両者が混同するおそれがあるが、上記のように一連に使用した場合には、類似又は混同しないと判断としてかかる和解をしたのである。然るに、原判決はかかる一連の使用方法も類似又は混同するということは民法第696条の和解の効果の規定に反するものである。

(2) 原判決は、被上告人以外に

合資会社駿河屋が「駿河屋」を

有限会社伏見駿河屋が伏見を小さくした「伏見駿河屋本店」「伏見駿河屋」

京都駅前駿河屋が「京都駅前駿河屋」

宇治駿河屋が「宇治駿河屋」

先斗町駿河屋が「先斗町駿河屋」

「京先斗町駿河屋」

三条駿河屋が「京三条駿河屋」

下里駿河屋が「するがや下里」

稲荷駿河屋が「稲荷駿河屋」、「駿河屋」

二条駿河屋が「二条駿河屋」の各商標をそれぞれ使用していることを認め、これらは「一般需要者には、上記の者らが取り扱う商品は老舗である駿河屋の商品、あるいは駿河屋と経済的もしくは組織的に何らかの関係のある者の商品であると認められ、事実その通りなのであるから、その点において、商品の出所混同のおそれという問題は生じない」(32頁5~8行目)と認定し、以上の者と被上告人との間には混同は生じないが、上告人との間には混同が生じると認定、判断する。

然しながら、訴外合資会社駿河屋等が上記のような使用をしているのを見て、何故に一般需要者には、「駿河屋と経済的、又は組織的に何らかの関係のある者の商品である」と認識され、商品の出所混同のおそれという問題が生じないのか全く似って不明である。

証拠によって明らかなように、訴外合資会社駿河屋等は所謂駿河屋会に入会しているものであるが、経済的には全く別個の法人であり、訴外会社(A)の商品が売れたときは、その分だけ、訴外会社(B)その他、又は被上告人の商品が売れなくなるのであって、経済的には全くその利害を異にするのであり、需要者が訴外会社と被上告人とを混同するときには、被上告人は経済的に損失を蒙るものであることは言うまでもない。従って、その両者に出所混同が惹起すると被上告人としては経済的に困るものである。実際は「駿河屋」にそれぞれ接頭語が付加せられているから、混同しないのである。果してそうであれば、上告人も「河内」という接頭語が付加せられており、他の訴外会社と同じように混同しないものである。問題が生じないことはない。

(3) 上告人の場合も訴外会社と全く同様である。唯、原判決は組織的にも何等の関係が存しないと認定しているが、駿河屋会を創立したのが、昭和32年4月24日であり、本件和解は昭和48年3月26日であるから、被上告人は上告人を駿河屋会に入会せしめて組織的な関連を持たすべきであった、蓋し、被上告人は、上告人についても、訴外人と同じように、「駿河屋」の接頭語として「河内」を付加することを認め、そのことによって、混同を避けることが出来るとして和解をしたのであるから、組織上、訴外人と同じように取扱うべきである。然るに、かかる取扱いをしないで、組織上の関係もないから、混同のおそれがあるということは、一方で和解をしながら、他方で和解の効果を剥奪するものであり、之又民法第696条の和解の効果の趣旨に反するものである。従って、原判決はこの点においても重大な事実誤認と法の解釈、適用の誤りがある。

3.依って、原判決は破棄せられるべきである。

4.(1) 因みに、被上告人は乙第188号証の1、2によって明らかなように、

<省略>

であった。之に対して、上告人は、

<省略>

(以上は、上告人の準備書面(4)第2項(1)の通り)

(2) ところが、平成6年度、7年度は次ぎの通りである。

<省略>

(以上乙第526号証、乙第527号証による)

即ち、被上告人は平成7年度は乙第527号証によると、和歌山県の順位2(全国291番)より売上げが減少し(従って、上告人より減少し)該書に記載せられていない。

(3) 以上によって、上告人の営業努力が真摯なものであることが明かである。

以上

(添付書類省略)

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